一日一曲マラソン2025小説まとめ

3日目
頭の中に重い声が響く…

「Asram…お前は太い…。異界で根性を叩きなおせ…」

声とともに気を失うAsram君。 目覚めたら見知らぬ森の中でした。

「案ずるな、この世界は優しい。死ぬことはないだろう…」

声が聞こえなくなった。 さてどうする…?

4日目
妖精さんに導かれて村にたどり着きホッとするAsram君。

妖精さん「あなたの目的は痩せることです。多くの強敵と戦いカロリーを消費するのです。敵は倒すのではなく、運動量を認めてくれれば自ずから退くでしょう」

5日目
せっかく見つけた平和な地、村の人たちも優しいし永住しようかと思ったAsram君でしたが、妖精さんに怒られて村を出ることに。
目指すは王都です。
こたつをしまうくらいの断腸の思いで村をあとにするのでした。

6日目
道中、魔物に遭遇するAsram君。
敵の攻撃は命中してもなぜか少しも痛くない。
しかしこちらの攻撃は空振りばかりで当たらない。

妖精さん「闇雲に攻撃してはダメです!敵の攻撃をしっかり見切って!華麗な動きと運動量で敵を屈服させるのです!」

7日目
敵と何度か対戦し、運動量が激しくへとへとなAsram君。
何とか王都にたどり着くことができました。

妖精さん「まずは冒険者ギルドに行って冒険者登録を、その後酒場に行って仲間集めですね」

Asram君はそれどころではありません。宿屋で寝たいのです。

8日目
初心者向け戦闘訓練場に来たAsram君。
目的が敵の殺傷ではないので、これはいわゆるジムですね。
教官が鬼のように厳しそうなので、目を付けられないように隅っこで素振りしてました。

教官「おい、そこのお前!」

😱😱

9日目
仲間を探すため酒場に来たAsram君。
見つけた冒険者は二人。

ウサギの戦士、ウザウサ。とにかくウザい。
タコの魔法使い、タコ美。恥ずかしがりや。

タコ美「…恥ずかしっ!」

そういうとタコ美は猛スピードで視界から消えてしまった。 大丈夫だろうか…。

10日目
仲間を連れて教会に来たAsram君。
目的は入信することでもお布施することでもありません。
“セーブ”をするためです。

酒場で盗賊団をこらしめてほしいという依頼を受けたAsram君。

ウザウサ「かったりぃウサ」
タコ美「恥ずかしっ!」

やはり不安です。

11日目
盗賊のアジトに潜入した一行。

盗賊「なんだてめえらは!?」

早速見つかってしまいます。
でも怖くありません、ここは優しい世界。 スポーツの世界です。
タコ美が泡の魔法で妨害し、ウザウサと二人で華麗に攻撃。 訓練場の教官の指導が活きましたね!

12日目
盗賊を追い詰め、ついに盗賊団のボスが姿を現しました。

ボス「こいつぁ驚いた、飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな!」

ボスが口笛で合図すると大勢の盗賊たちが駆けつけてきました。

ウザウサ「や、やばいウサ!さすがに数が多いウサ!」
タコ美「人がいっぱい…恥ずかしっ!」

タコ美は近くの樽に隠れてしまいました。

ボス「へへ、最近身体がなまってたんでなぁ。いい汗かかせてくれるんだろうなぁ?」

笑みを浮かべながら歩み寄る盗賊たち。
さすがにこれだけの数相手に運動量、パフォーマンスで勝負するのは難しそうです。

ウザウサ「しゃらくせえ、これでもくらえウサ!」

ウザウサはそういうと手持ちの爆弾を盗賊たち目掛け投げました。

盗賊「ごほっごほっ…何だこりゃ、あ、あはははははは!!」

吸い込むと笑い転げるガス爆弾で、盗賊の手下たちはあちこち腹を抱えて笑っています。

ボス「ゲホゲホ…てめえ、何てことしやがる!」

ボスはさすがにレベルが高くて効いてないようです。

ウザウサ「一人なら勝てるウサ!三人で囲むウサ!」
タコ美「こうなったら恥ずかしいけど…タコ踊り!」

Asram君も攻撃に参加します。 こちらのスタミナが尽きる前に、ボスに認めてもらえるだけの運動をやれれば勝利です。

13日目
盗賊のボスはAsram君たちの運動の熱量にたまらず降参。
頼りないと思っていた仲間たちに助けられました。
依頼達成です、街に平和が戻りました。

そういえばAsram君、少し体が細くなったのでは?
この調子だと、異世界から戻れるのも遠くないですね。

14日目
盗賊団退治の依頼を終え、宿屋で休んでいるAsram君たちのところに、一人の兵士がやってきました。

兵士「Asram様ですね。王様が御用があるとのことで、城に来ていただけないでしょうか?」

顔を見合わせ、こそこそ話するAsram君達。

ウザウサ「こいつぁ、大出世のチャンスかもしれねえウサ!」
タコ美「ご褒美がもらえるのかな…わくわく」
妖精さん「うーん厄介事じゃなければいいけど…」

Asram君たちは兵士に同行して城に行くことに決めました。
城に到着する一行。

ウザウサ「相変わらず立派な城だウサ。民から吸い上げた税金でこの国は潤ってるウサ」
妖精さん「シッ!めったなこと言うもんじゃないわよ」

城門をくぐり、中へと入っていきます。

兵士「王様はこの先です。失礼の無いようお願いします」

兵士に連れられて王様の目の前まで来ました。
片ひざをついておじぎをするAsram君。

タコ美「お、おうさま…恥ずかしっ!」

タコ美は後ろの柱の所に隠れています。

王様「そなたがAsram殿じゃな?盗賊の脅威を打ち払ってくれて感謝する」
王様「そなたをここに呼んだのはほかでもない、貴公たちの実力を見込んでのことじゃ」

Asram君たちは顔を見合わせます。

王様「実は、世界各地に魔物の脅威が現れておる。人を傷つけたりはせんが、住民たちが不安でな。そなたらに追い払ってほしい。もちろん褒美も授けよう」
王様「まずはここから東の港町に行き、海の魔物を追い払うのじゃ。よろしいか?」

妖精さん「ちょうどよかったわ、これで目的に近づけますね!」

もともとAsram君は、強敵と戦ってカロリー消費をして痩せるのが目的なので、今回の依頼と合致しています。
Asram君たちは承諾することにしました。

王様との謁見を終え、城を出る一行。
東の港町に向けて、街で食料や道具などを買いそろえます。

15日目
王都を出た一行は東の港町に向かいます。
途中中間地点に村があるそうなので、そこで今日は宿を取ろうと思います。

妖精さん「ようやく冒険らしくなってきましたね!Asramさん、頑張って痩せましょう!歩くのも運動になりますよ」

Asram君は長距離の移動に少しバテています。

ウザウサ「なんかよぅ、瞬間移動できる魔法みたいなのが欲しいウサ。お前は使えないウサか?」

タコ美に尋ねるウザウサ。

タコ美「そ、そんな便利な魔法はありませーん。私が使えるのは戦いに関する魔法ばかりで…ごめんなさい」

ウザウサはため息をついています。
時々魔物が襲ってきたりするので、さらに疲れます。
草原を歩き森を抜け、Asram君たちの旅は続きます。

16日目
王都から出発し、東にある村に着いた一行。
美しい自然に囲まれた穏やかな村です。
しかしみんなもう疲れ切っていて、早く食事をして寝たいのです。

宿につきました。

宿主「いらっしゃい。旅の方かね?この村で馬を買っていくと便利だよ」
妖精さん「馬…確かに今後のことを考えると楽になるので欲しいですね。カロリー消費は減りますけど」
ウザウサ「馬はどこで売ってるウサ?」
宿主「馬牧場だよ。明日行ってみるといいよ」

その日は美味しい食事が出て、粗末なベッドで眠りにつきました。

次の日、さっそく馬牧場に行く一行。

タコ美「あ、あの人じゃないかしら?」

馬を管理していると思われる男の人に声を掛けます。

男「馬が欲しいのかい?一頭500だぜ」
一行「…」

王都で色々買ったのでそこまでのお金はありませんでした。

妖精さん「あ、あの。私たち王様のご命令で魔物退治をしながら旅している者でして…旅をスムーズに進めるためにも、少しお安くしていただけると助かるのですが…」
男「いや、500は500だ。足りねえならどこかで稼いでくるか、諦めるんだな」
妖精さん「そんなあ~」
ウザウサ「タコ美、色仕掛けするウサ」
タコ美「いっ…そそそそそんなのできるわけありません!💦」

タコ美は全身を真っ赤にして恥ずかしがっています。

男「ん…そこのあんた」

男はAsram君を見つめます。

男「あんた、うちの息子に似ているな。俺には一人息子がいるんだが、馬屋を継ぐこともせず、冒険者になるって言って飛び出しちまって…今頃どこで何をしているやら…」
男「無事でいてくれさえすれば、それでいいんだ。でも村に帰ってくることもないし…」

男はしばらく考え、うなずくような仕草をした後に言いました。

男「あんたら、うちの息子を探してくれるか?名前はハンス。そこの兄ちゃんにそっくりだ」
男「もし探してくれるなら、馬をタダで譲ろう。どうだ?」

一行は顔を見合わせます。

妖精さん「いいんですか、ありがとうございます!ハンスさんは必ず見つけ出します!」
タコ美「良かったですね、ご厚意に感謝しないと」
男「ほら、そこにいる3頭をあんたらのものにするよ。乗ってきな」

男はそういって馬を指さし、笑顔を浮かべます。
馬を手に入れた一行、これで冒険がぐっと楽になることでしょう。

17日目
村で馬を入手し、東の港町を目指す一行。

ウザウサ「ヒャッホー!こいつは快適ウサ!」
タコ美「わわ…馬なんて乗らないから、難しいです」

Asram君も馬の扱いに苦戦しているようです。
妖精さんはAsram君の肩にとまっています。

妖精さん「私も楽ですね、いい買い物しましたね!」
ウザウサ「買ってはいねえウサ」
妖精さん「そうそう、ハンスさんを見つけ出さないといけませんよね。立ち寄る街とか村で情報を集めてみましょう」

馬のおかげで東の港町には日が暮れるまでにたどり着けそうです。

18日目
東の港町に馬に乗って向かう一行。
ところが道中モンスターの大群に囲まれてしまいました。

タコ美「恥ずかしっ…じゃなくて数が多いです、どうしましょう!?」
ウザウサ「どうしようって、突破するしかねえウサ!」

妖精さん「いえ、待ってください。数が多いとはいえ敵の動きは鈍いです。 こちらが騎乗し俊敏な動きで敵を圧倒すれば勝てるでしょう」
タコ美「わざわざ戦うんですか!?」
妖精さん「はい、これも修行のうちと思えばいいですよ」
ウザウサ「お前、ドMウサ」
タコ美「肩にとまってるだけで何もしないのに」

妖精さんは顔をそむけています。

ウザウサ「とにかくやると決まったらやるウサ!敵は待ってくれないウサ!」
タコ美「はいっ!」

Asram君も慣れない騎馬戦ですが挑みます。 3人と馬三頭の運動量を見せつければ、きっとモンスターたちもびっくりして逃げ出すはずです!

19日目
日が暮れる前に一行は東の港町にたどり着きました。
まずは宿を取り、食事をして休みます。
本格的な活動は明日からです。

次の日。
一行は酒場をはじめ、街のあちこちで聴き込みをすることにしました。
魔物についてと、村の馬屋の息子のハンスの情報です。

漁師「おう、その海の魔物ってのはな、タコの怪物だ。船を走らせてると突然出てきてびっくりさせやがる」
タコ美「タコ…」
漁師「今はけが人とかは出てねえが、みんなおびえちまってるからなんとかしてくれねえか?」

一行は承諾し、タコの怪物退治に乗り出すことにしました。

漁師「船は貸してやるからよ」

タコ美「はあ…それにしても、同族が迷惑をかけてるなんて恥ずかしいです」
ウザウサ「イカならまだよかったウサ?」
タコ美「まあ…どちらにしても海の生き物と人間が争ってほしくないですね」

ハンスの情報は後にして、一行は船に乗って怪物が良く出現する辺りを見回りすることにしました。

20日目
タコの怪物捜索のため、港町から少し沖に出たところを船で巡回する一行。
目の前には穏やかな青い海が広がっており、潮風が吹いています。

妖精さん「どの辺にいるんでしょうね?」
タコ美「さあ…敵が魔法使いなら魔力を感知したりもできるのですが」

ウザウサは一人で釣りを楽しんでいます。

妖精さん「それにしても綺麗な海ですよね、Asramさん」

Asram君は小さい頃海でおぼれて、トラウマがあるのでうなずきません。
黙々と船を操舵しています。

タコ美「退屈。トランプでもします?」

とタコ美が言ったその時、大きなタコ足が海中から現れ、船に一撃を加えました。

妖精さん「きゃあ!」
ウザウサ「来やがったウサ!全員準備するウサ!」

21日目
港町で依頼を受け、タコの怪物を捜索していた一行。
ついに怪物がその姿を現しました。

妖精さん「お、大きい…」
ウザウサ「天候が変わった…?気を付けるウサ!」

気が付くと辺りは暗くなり、風雨が吹き荒れていました。

タコ美「お、お兄ちゃん…嘘でしょ…」
妖精さん「え、ご家族の方ですか!?」
タコ美「はい、大きさはだいぶ違いますが、確かに兄です。間違いありません!」
妖精さん「そんな…」
タコ美「こんなところで何やってるのよ、も~💦」

タコの怪物は巨大なタコ足を華麗にしならせ、Asram君達を翻弄します。
その動きはまるで踊りを踊っているかのようです。
一方Asram君たちは、船上で悪天候のため、機敏な動きができません。

タコ美「お兄ちゃん!目を覚まして!!」

タコ美が魔法で攻撃するものの、怪物は気に留めず攻撃を仕掛けています。
タコ足で締め付けられ、弾き飛ばされ、苦戦するAsram君達。

ウザウサ「くそっ、こんな奴どうやったら勝てるウサ!?」
妖精さん「このままでは不利です!いったん退いて立て直しましょう!船が壊れてしまいます!!」
タコ美「わかりました、では…バブルミスト!」

タコ美が幻惑魔法を唱え、怪物の追撃を逃れることができました。

ウザウサ「まさかこんなとんでもねえ化け物だったなんて、聞いてなかったウサ」
妖精さん「シッ!」

タコ美はうつむいています。

タコ美「兄は、私が冒険者になる前に私の面倒を見てくれました。私の両親は早くに亡くなり、ずっと二人で育ってきたんです」
タコ美「優しい兄でした。間違っても、人に迷惑を掛けたりする人ではありません。それなのになぜ…」

タコ美は悲しい表情を浮かべています。

妖精さん「いったん街に戻って、作戦を立て直しましょう。タコのあの動きについていけるように、訓練場で鍛えるのも良いかもしれません」

天候は元に戻り、海は静けさを取り戻しました。 港町が目の前です。

22日目
タコの怪物との戦いに敗れたAsram君一行、港町まで引き返してきました。

妖精さん「まずは酒場に行きましょう。いったん休みつつ次の作戦を考えないと…」

一行は酒場に入りテーブルに着きます。

ウザウサ「とにかく、鍛えるしかねえウサ。あの動きについていけないとどうしようもねえウサ」
タコ美「はい…あの踊るような動きには、こちらも同じような動きで対抗するしかないでしょう」

Asram君はお酒が飲めないのでジュースを飲んでいます。

しばらくすると、カウンターからこちらに声をかけてくる女性の声がありました。
声の主はこちらのテーブルに近づいてきます。
青い長髪で丸い眼鏡をかけた冒険者という感じです。

女「ごめんなさい、邪魔して。あなたたち魔物退治を依頼されてる冒険者でしょう?」
妖精さん「あなたは…?」
女「私はリーネ。魔道士よ。私の魔法とあなたたちの力があれば、海の魔物に勝てると思うの」

一行は顔を見合わせます。

ウザウサ「なんでそんな提案を…目的は何ウサ?報酬ウサか?」
リーネ「いいえ、報酬ではないわ。あなたたちについていったら私の目的が達成できると思ってね。借りを作らせてほしいの」
タコ美「あなたの目的とは…?」
リーネ「あなたたちのことを信頼できると思ったタイミングで話すわ。いまはちょっと待ってほしい」

タコ美「あなたはどんな魔法が使えるんですか?」
リーネ「氷の魔法。敵の動きを鈍らせるにはもってこいよ」
妖精さん「なるほど、タコ足を氷の魔法で鈍らせて、その間にこちらがそれを上回る運動をすれば…!」
リーネ「そういうこと。協力させてもらってもいいかしら?」

ウザウサは唸るような声を出しています。

ウザウサ「いや、それだけでは足りねえウサ。こちらも俊敏に動けるよう鍛えないといけないウサ」
タコ美「そうね、訓練場に行きましょう。リーネさん、よければあなたも」
リーネ「え、私も!?私運動とかはちょっと苦手で…」
妖精さん「私たちのパーティに入るなら、運動は必須項目です。観念してください」

リーネは涙目を浮かべて抗議していましたが、結局タコ美とウザウサに引っ張られて訓練場に連れていかれるのでした。

23日目
タコの怪物との再戦に備えて訓練場に来た一行。
人の数はそれほど多くなく、閑散としています。

向こうに腕組みしている教官らしき人の姿。
その教官はこちらに駆け寄るなり、声をかけてきました。

教官「Asram!Asramではないか!私だ、王都でお前を指導した教官だ!」

Asram君は聞くなり、回れ右して逃げ出そうとします。
教官はAsram君の首根っこを掴んで逃がさないようにします。

教官「つれない奴だ。わざわざ出張でこっちまで来てる私に会いに来てくれたんだろう?」
タコ美「お知り合いだったんですか?」
妖精さん「ええ、ちょっと厳しい方でね…」
教官「うん、お前たちはAsramの仲間だな。一緒にビシバシ鍛えてやろう!ハッハッハ!!」

妖精さん「教官、私たちタコの怪物に勝たないといけないんです。そのためにタコの踊るような動きに対処できるようにならないといけなくて」
教官「タコの怪物…この港町で噂になってるやつか。殊勝な心掛けだな。ならば、あれが良いだろう」
タコ美「あれ?」

教官「幻影石という、モンスターの幻影を生み出す魔法が込められた石がある。それでモンスターとの戦いをシミュレートするのだ。」
ウザウサ「そんな便利なものがあるウサか!」
リーネ「凄いわね…!」

教官「ただ、それだけではだめだ!基礎訓練を決して疎かにしてはいかんぞ!これから一週間は私のスペシャルメニューをこなしてもらう」

教官は目を光らせて喋っています。

教官「さあ、まずはランニング50周!その後スクワット、腹筋、腕立て各100回!終わったら素振り1000回だ!!」
リーネ「ひいっ、私ここで死ぬのかな…」

Asram君たちのトレーニングが始まります。

24日目
訓練場での訓練が一週間を過ぎ、教官のスペシャルメニューを見事こなした一行。
リーネは最後まで訓練についていくのがやっとでしたが、皆見違えるような顔つきをしています。

教官「よし、行ってこい!必要なことは全て教えたはずだ」
妖精さん「はいっ!感謝いたします!」

再び船に乗ってタコの怪物がいた地点を目指します。
しばらく経つと、また天候が変わり、風雨が吹き荒れる嵐へと変わりました。
タコの怪物が姿を現しました。

妖精さん「さあ、手はず通りに!」
タコ美「…前はお兄ちゃんにしてやられたけど、今度はそうはいかない!バブルシールド!」

タコ美が魔法を唱えると、一行を泡のバリアが包みました。
雨や風の影響を減らす効果があるようです。

リーネ「次は私ね…とっておきを食らいなさい!」

リーネはそう言うと、氷魔法を唱えました。
氷のビームがタコの足に命中し、氷漬けにします。

ウザウサ「今だウサ!Asram、二人で剣舞を踊るウサ!」

Asram君はうなずくと、二人で舞い始めました。
タコの足がたびたび攻撃を仕掛けていますが、氷魔法で鈍くなっているうえ、訓練を積んだ二人には見切られています。

妖精さん「さあ、みんな踊りましょう!タコ美さん、リーネさんも」
タコ美「お兄ちゃんの前で恥ずかしいけど、仕方ないです!」
リーネ「私も恥ずかしいわよっ!」

しばらくすると、タコの前で踊り続ける一行は穏やかな光に包まれていきます。

???「そうだ…これが舞の精神だ…」

どこからともなく低い声がしたかと思うと、光は一層輝きを増し、まばゆい閃光に変わりました。

妖精さん「きゃあ!これはいったい…」

光が輝きを次第に失っていきます。
嵐はいつの間にか止み、船に先ほど闘っていたタコの怪物が、以前より小さくなった姿で横たわっています。

タコ美「お兄ちゃん!!!」

タコ美はすぐそばに駆け寄り、兄を揺さぶります。

タコ「う…ここは…?タコ美…?」
タコ美「お兄ちゃん!!よかった!!もう、こんなところで何してたのよ!?」

25日目
タコの怪物に踊りによって勝利した一行。
タコの怪物は巨大化の変身が解け、元のタコ美の兄の姿に戻りました。

ウザウサ「俺ら…勝てたウサか?」
妖精さん「見てください、お兄さんが!」

タコ美「お兄ちゃん!!良かった無事で…!」
兄「いったいオレは何をやってたんだ…?記憶が無い…」
タコ美「お兄ちゃん港町の近海で暴れまわってたのよ!みんな怖がって船を出せなくなってたの!」
兄「!!」

タコ美の兄はしばらく沈黙した後、こちらのパーティを見渡して言いました。

兄「あんたら、タコ美と一緒にオレを止めてくれたんだな?感謝するよ。オレはタコ助っていうんだ」
タコ助「いつからか、記憶が無いんだ。ただ自分が大きな力に取りつかれていたような覚えはある。何か見えない力に操られているような…」
タコ助「そうだ、女の声がした。内容はわからないが、凄く自分の力に酔いしれるような、そんな気分になった」
リーネ「……」

タコ美「女…怪しいわね、その声の主が。もしその女の仕業でお兄ちゃんがこうなったのなら、物凄い力の持ち主だと思う」
リーネ「それに関して、みんなには一度私の故郷まで来てほしいの。こっちにも普通の犬が巨大な狼になって、度々村が襲われているの。確か王様の依頼のターゲットにもなってるはずよ」
妖精さん「ふむ、どうしましょう。いったん宿屋に戻って話し合いましょうか?」

タコ助「オレは…港のみんなに謝ってくるよ。そして許してもらえるまで罪を償おうと思う」
タコ美「お兄ちゃん…」
タコ助「オレは冒険者じゃないからあんたらにはついていけない。でもオレと同じように姿を変えられて暴れまわってるやつらがいるなら、元の姿に戻してやってくれ。あんたらの旅の無事を祈ってるぜ」
タコ美「お兄ちゃんも元気で!また時々戻ってくるわ」

港町にたどり着いた一行。 今後の作戦を練っていきます。

26日目
タコの怪物に打ち勝ち、タコ美の兄、タコ助を救い出した一行。
宿屋での話し合いの結果、次の目標は、リーネが言っていた狼のモンスター退治に決まりました。
船で遥か北にあるリーネの故郷の村を目指します。

初めての船旅ですが、天気も良く、一行は明るい気分で進んでいます。

リーネ「ふう、風が気持ちいい…」

リーネは船の縁から身を乗り出し、海を眺めています。

ウザウサ「そろそろお前の目的を教えるウサ。何を企んでるウサ?」

ウザウサが話しかけます。

リーネ「目的は同じよ。魔物退治。タコ助さんみたいに化け物に変えられてしまった人たちを元に戻すことよ」
ウザウサ「報酬が要らないのにウサか?」
リーネ「ええ、要らないわ。私にはもっと大事なものがあるの」
ウザウサ「………」

ウザウサはリーネをじっと見つめています。

ウザウサ「…俺は仲間想いってわけじゃねえが、これまで旅して同じ釜の飯を食ってきたウサ。もし仲間を裏切ったら許さねえウサ」

ウザウサはそう言うとリーネから離れていきました。

タコ美は一人で黙々とトランプの七ならべをしています。
トランプを他の人にも誘いましたが、誰も一緒に遊んでくれなかったようです。

Asram君はパンを食べるのに一生懸命になっているようです。
固いパンだから噛む力がいります。
妖精さんは食べ過ぎちゃダメでしょってAsram君を叱っています。

それぞれ思い思いに過ごしながら、船旅は進みます。

27日目
船でリーネの故郷の村に向かっていた一行。
船旅を終え、村までたどり着きました。
あまりの寒さに皆、防寒着を着ています。

妖精さん「ここが…!」
リーネ「着いたわね。村の案内をするわ」

一行はリーネを先頭に進んでいきます。
宿屋、酒場、道具屋など冒険に必要な施設を教えてもらいました。

リーネ「あとは…私の家に来てほしいの」
タコ美「リーネさんのお家…ですか?」
リーネ「ええ、見せたいものがあるの。こっちよ」

一行はリーネに言われるがままついていきます。

リーネ「着いた。さ、入って。ホコリだらけかもしれないけど…」

一行はリーネの家に入りました。
リーネは暖炉に火をともしています。

リーネ「あれからずいぶん経ったけど…あの時のまんまなのね」
ウザウサ「何年帰ってないウサ?」
リーネ「5年」

ウザウサは少し引いています。

タコ美「差し支えなければ、ですが、ご家族の方は…?」
リーネ「家族は姉が一人。両親は私と姉を置いてどこかへ行ってしまったわ」
タコ美「……ごめんなさい」
リーネ「いいのよ。見て、これが私の姉の肖像画よ」

テーブルの上に置いてある小さな額縁の絵には、青い長髪で丸い眼鏡の少女と、青い短髪の若い女性の絵が描かれていました。

妖精さん「えと、こっちの眼鏡の人がリーネさんですよね?じゃあこっちがお姉さん?」
リーネ「そう、私の姉リーエよ。私と同じで魔法を使えるの」
タコ美「この村にいらっしゃるんですか?もしかしたら心強い味方になるかも…!」

リーネ「それは無理よ」

リーネはため息をつきながら話しました。

リーネ「リーエは…あいつは、私たちの敵よ」

タコ美「え…それはどういう…?もしかして私の兄と同じで…?」
リーネ「もともと優しい姉だったの。私を可愛がってくれたわ。でも、ある時からあいつは変わってしまった。魔の力に魅入られた、邪悪な暗黒魔導士に」
リーネ「あいつは、魔法で村をめちゃくちゃにした。そして私は見たの。村の子供の飼い犬に魔法をかけて、巨大な狼に変身させたのを!」

ウザウサ「なんだって…マジウサか!?」

一行に衝撃が走ります。

妖精さん「え、その狼が私たちのターゲットってことですよね…。じゃあもしかしてタコ助さんも…?」

リーネはゆっくりうなずきます。

リーネ「いま世界各地で暴れまわってる魔物は、おそらくリーエに魔法をかけられて姿を変えられたものよ。私たちは魔物を元の姿に戻すのももちろんだけど、元凶のリーエを止めなければならない」
タコ美「そんな…お姉さんが、なぜ…」
リーネ「5年前、私はリーエに魔法で挑んだわ。でも相手にならなかった…。狼も止められないかと思ったけど、私一人では無理だった。そして村を出て、魔物の噂を聞きつつ強力な仲間を探していたの」
ウザウサ「そうだったウサか、これで納得がいったウサ」
タコ美「リーネさん、話してくれてありがとうございます」
リーネはにこやかな笑みを浮かべています。

妖精さん「それで、狼はこれから何とかするとして、リーエさんはどこにいるんですか?」
リーネ「わからない…世界各地で魔物化が進んでいるから、あちこち移動しているんだと思う。ずっと探しているんだけどね」
タコ美「あれだけ強力な魔物に変える力があるから、リーエさんの魔力は底知れぬものだと思います。私たちで対抗できればいいのですが…」

リーネ「ありがとう、来てもらえて嬉しかったわ。今日は宿屋で休みましょう。明日狼の情報を村のみんなに聞いて、雪原に向かいましょう」

一行はリーネの家をあとにし、宿屋に向かいました。

次の日。
一行は朝から村人たちに狼の情報を聞いて回っています。
中にはリーネの姿を見て驚いている人もいるようです。 リーネは犬の飼い主だった子供に話しかけています。

子供「リーネ…ねえちゃん?戻ってきたの?」
リーネ「うん久しぶり。ちょっとペテロのことでね」
子供「ペテロ…ペテロは狼になっちゃった。僕の大事なペテロが…」

子供は涙を浮かべながら話しています。

リーネ「ペテロとはよく雪原で遊んでいたよね?どの辺に行ってたの?」
子供「あ、それはね」

子供はリーネに説明します。

リーネ「ありがとう。見てて、きっと私がペテロを元に戻すからね!」

子供から離れると、リーネはパーティに加わり、説明します。

リーネ「さあ行きましょう、雪原へ!」

28日目
一行はリーネの故郷の村を出た後、狼のモンスターのいる場所に向けて雪原を移動しています。

妖精さん「うう~寒い!」
ウザウサ「タコ美、確か炎魔法も使えたウサ。早く俺を暖めるウサ」
タコ美「魔力がもったいないですよ、これから大変な敵と戦うというのに…」

Asram君も防寒対策バッチリにもかかわらず、寒さで震えています。
吹雪は一層強さを増しています。

リーネ「くっ、視界が悪い…」
ウザウサ「ほんとにこの道で合ってるウサか?」
リーネ「ええ…でもそこに例の狼がいるとは限らないけどね。でも見て、さっきから狼たちが襲ってきてるでしょう?狼は群れで行動するから、ボスに近づいているかもしれないわ」
ウザウサ「早く見つかってほしいウサ」

リーネ「先に言っておくわ、狼のボスには私の氷魔法は通用しないの。そしてものすごく俊敏な動きで、氷のブレスまで吐くわ。カギを握るのはタコ美さんの魔法とみんなの運動能力だと思う」
タコ美「………」

妖精さん「その狼ってのはやっぱり大きいんですよね?どのくらい?タコ助さんくらいですか?」
リーネ「5mくらいはあった気がする」
妖精「ひええ、とんでもないですね」

一行はしばらく小さい狼を撃退しながら進んでいくと、遠くにある何かに気付きました。

リーネ「見て、あの狼!周りの風景に比べてかなり大きくない?」
ウザウサ「あいつウサ!間違いねえウサ!」
妖精さん「どうします?まだこちらに気付いてないようですが」
タコ美「バブルシールドで雪の影響を減らしてから戦いましょう」

タコ美はそう言うとバブルシールドを唱えます。
魔法の輝きに気付いたのか、狼がこちらに向かってゆっくり進んでいます。

ウザウサ「こっちに気付いたウサ!」
妖精さん「取り巻きの狼も何匹かいるみたいです!」
リーネ「みんな気を引き締めて!全力で戦いましょう!」
タコ美「では私は幻惑魔法を…」

Asram君も戦闘態勢に入ります。
いよいよ狼たちとの決戦です。

29日目
雪原で狼のモンスターを探し、ついに見つけ出した一行。
狼の前に立ちはだかります。

ウザウサ「取り巻きの数が多いウサ、先にこっちを片付けるウサ!」
タコ美「はい。ではこれでもおくらいなさい!」

タコ美はそう言うと泡の幻惑魔法を唱えます。
狼たちは幻惑魔法にかかり、泡を人だと思い攻撃しています。

ウザウサ「今のうちに、小さな狼を運動で屈服させるウサ!Asram、行くウサ!」

ウザウサとAsram君は幻惑魔法で混乱している狼たちに攻撃を仕掛けています。
攻撃で傷つけることはありませんが、攻撃そのものが運動となって敵を畏怖させます。

妖精さん「危ない!」

巨大な狼が一息吸うと、氷のブレスを放ちました。
前衛のAsram君とウザウサはブレスに見舞われます。

ウザウサ「ぐっ…寒さで動きがとれねえウサ!」
リーネ「私に任せて!」

リーネはそう言うと氷魔法を唱えました。

「アイス・ウォール!」

詠唱とともにAsram君たちの目の前に巨大な氷の壁が生み出されます。
氷のブレスを防いでくれているようです。

ウザウサ「助かったウサ!取り巻きがうざいからこっちを早く片付けるウサ!ちょっともったいねえけどこれを使うウサ」

ウザウサはそう言うと爆弾を取り出し、狼の群れに向かって次々と投げていきました。
爆発とともに大きな音が鳴り、狼たちは気絶していっています。

リーネ「凄いわね、そんなにたくさん持ってたの?」
ウザウサ「奥の手は普段はなかなか見せねえウサよ」
タコ美「さあ、ボスを倒してしまいましょう!」

狼のボスは幻惑魔法も爆弾も効いていない様子。
猛烈なスピードで突進し、Asram君を突き飛ばしました。
転げて雪まみれになるAsram君。

妖精さん「Asramさん、大丈夫ですか!?」

Asram君は起き上がると、何やら様子がおかしいです。
体が光り始めました。
怒りで険しい表情をしています。

ウザウサ「Asram、どうしたウサか!?」

ウザウサの声に耳を貸さず、Asram君は狼に向かって突進しだしました!
狼はブレスを吐くものの、Asram君に横っ飛びでかわされてしまいます。
狼はおびえたのか逃げ出し始めます。

リーネ「どうしちゃったの、あれ…?」
ウザウサ「俺らも追うウサ!」

全員で逃げる狼を追いかけます。
しかしスピードが違うので、どんどん距離を離されていきます。

妖精さん「諦めないで!逃がしてはダメよ!」

狼を追いかけるパーティ全員が光り輝き出しました。
どんどん追いかけるスピードが速くなっています。

リーネ「これなら…追いつける!」

光は一層輝きを増していきます。
ついに一行が狼に追いついたその瞬間、まばゆい閃光となって一帯を照らし出しました。

???「そうだ…これが『走』の精神だ…」

光が徐々に消えていきます。
光が無くなると、一行の目の前には狼よりもずっと小さい、一匹の犬の姿がありました。

犬「クウン?」

犬は戸惑った表情をしています。

リーネ「ペテロ!」

リーネは犬に駆け寄ります。

リーネ「ペテロ、よかった…!すぐ飼い主の所に戻してあげるからね」

タコ美「良かったですね!でも先ほどの声、『走』の精神といってましたが、気になります…」
ウザウサ「何で俺らがこんなことができるのかも、気になるウサ」
妖精さん「そうですね。でも今は一刻も早く村に戻りましょう。飼い主も待っていることですし」

妖精さんがそういったときでした。

???「まさか、元に戻せる者がいようとはね」

突然天候が変わり、雷の轟音が聞こえてきたと思うと、辺り一帯が闇に覆われました。
それまでホッとして空気に包まれていたのが、身も心も凍りつくような殺伐とした雰囲気に変わりました。

タコ美「な…なんという魔力!これはいったい…!?」

闇が一つの塊となり、一人の人の姿へと変わりました。
杖を持ち、黒いローブを着ている、青い髪をした女性の姿です。

リーネ「リ…リーエ!」

30日目
狼のモンスターを元の犬の姿に戻すことができた一行。
しかしリーネの姉、暗黒魔導士リーエがパーティーの前に突如姿を現しました。

妖精さん「これが…リーネさんの姉…」

妖精さんは邪悪なエネルギーを纏ったリーエの姿に驚いています。
一行に今までにない緊張が走ります。

リーネ「リーエ…見つけたわ!あんたのこれまでの行い、私は許さない!」
リーエ「リーネ、久しぶりね。まさかあなたが魔物を元に戻してたとはね」
リーネ「なぜこんなことをするの!なんの罪もない動物を!」

リーエ「すべては、我が主のため。邪魔をするならば滅ぼすのみ」
リーネ「主…誰よ!?答えなさい!!」

リーエは杖を持った腕を振り上げると、天空に光が集まり、轟音とともにリーネの前方に雷が落ちました。

リーネ「うわあっ!!」
ウザウサ「リーネ、大丈夫ウサか!?」
タコ美「リーネさん、しっかり!私とあなたで魔法を唱え、ひるんだすきにAsramさん達に攻撃してもらいましょう!」

リーネは態勢を立て直し、タコ美と魔力をシンクロさせて同時に魔法を放ちます。
リーネは氷魔法、タコ美は炎魔法です。
しかし、リーエに命中する手前で闇のバリアに阻まれ、かき消されます。

リーエ「愚かな、私に逆らうとは愚の骨頂です。後悔するがいいわ」

リーエはそう言うと魔法を唱えます。
すると急にAsram君達の身体に重力がかかり、身動きを取るのが困難になります。

妖精さん「きゃあ!飛べない!」
タコ美「体が…動かない…!!」
ウザウサ「くそ、なんて魔法を使うウサ!!」

パーティーは身動き一つとれず、倒れています。

リーエ「さあ、あなたたちも魔物に変えてあげるわ。私の忠実なしもべにね」
リーネ「させない…!」

リーネは魔力を集中し、重力を緩和させています。

リーネ「この人たちは仲間よ。仲間に手を出すやつは許さない!」
リーネは味方をかばっています。

タコ美「私だって…やるときはやるんです…!」

タコ美も起き上がります。

タコ美「リーネさんのお姉さまだからって、何してもいいわけじゃないです!あなたはここで止めて見せる!」

リーエ「ふ、少しは魔法の心得があるようね。ならこれはどう?」

リーエは手を振り上げると、空中に魔法のロープが現れ、リーネとタコ美に向かって放たれます。
ロープは二人をぐるぐる巻きに縛り上げ、身動きを取れなくします。

タコ美「くっ…解けない…!」
リーネ「くそっ…こんなところで…!」

リーエ「さあ、お祈りの時間です。力のある魔物に生まれ変わりますように」

リーエは手に魔力を集中します。
絶体絶命のピンチです。

31日目
暗黒魔導士リーエと対決し、手も足も出ず追い詰められる一行。
今まさにリーエの魔力で魔物に変えられようとしていた時でした。

???「させぬ…この者たちはこの世界の希望。闇の女王よ、貴様の思い通りにはさせぬ…!」

声の主がそういうと、Asram君達の周囲に暖かい光の結界が出現しました。

タコ美「これは…なんて優しい魔力…」
ウザウサ「体が動かせるウサ!」
リーネ「これは一体…?」

一行は不思議な現象に戸惑っています。

???「結界から出てはならぬ…。闇の女王よ…ここは退くがいい」
リーエ「馬鹿な、誰が退くものですか。この程度の結界!」

リーエは魔力を集中し、暗黒のビームを放ちます。
しかしパーティーに命中する手前で、結界の力で防がれてしまいました。

リーエ「生意気な。ではこれならどうです!」

リーエは闇のエネルギーを一点に集中し、球状にしてAsram君達の方へ飛ばします。
球が結界に触れた瞬間、大爆発が起こりました。

妖精さん「きゃあっ!!」

一行は爆発に驚きます。
しかしこれも結界の力で防がれてしまいました。

タコ美「すごい…私たちを守ってくれている…!」

リーエは竜巻を起こす魔法、巨大な岩を飛ばす魔法、炎の竜を生み出し攻撃する魔法など多彩な魔法を唱えましたが、全て結界にはじかれています。

リーエ「ここまでか…ここでこれ以上無駄に魔力を消耗するわけにはいかない」

リーエはそう言って、闇のゲートをくぐり姿を消しました。

妖精さん「消えた…」
ウザウサ「俺たち、助かったウサか…?」

辺りは静けさを取り戻しています。

リーネ「…村に戻りましょう。今は一刻も早くワンちゃんを飼い主の所に戻さないと」

一行はその場をあとにして、村へと戻りました。

村にたどり着いたら、犬の飼い主の子供が入り口近くで待っていました」

子供「あ、ペテロ~!!」

犬は子供に駆け寄ると、顔をぺろぺろと舐めています。

タコ美「良かったですね」
リーネ「ええ…これで依頼は達成だわ」
妖精さん「でも…リーエさんは…」

リーネはくるりと後ろを向き、皆の方を向いて言います。

リーネ「私…甘く見てた。まさかリーエの強さがあれほどなんて。勝負にならなかった」
リーネ「でも、私は必ず強くなって、リーエを止めて見せるわ。必ずよ…必ず…!」

タコ美はリーネの肩にポンと手を当てました。

タコ美「リーネさん、あなたはもう一人じゃないです。みんなで一緒に勝つ方法を考えましょう」
ウザウサ「そうだウサ。思い詰めるなウサ」
妖精さん「みんなで頑張りましょう!」

Asram君も笑顔を見せています。

リーネ(でも私は…刺し違えてでもリーエを止めなければ。この人たちを犠牲にしてはいけない)

妖精さん「さあ、宿屋に戻りましょう。次の目的地を決めないとね!」

一行は宿屋に戻り、休息します。

32日目
リーネの故郷で狼のモンスターを退治した一行。
次は皆の総意でもっと暖かい地域に行くことになりました。

ウザウサ「やっとこのクソ寒い地域からオサラバできるウサ」
リーネ「あんた毛皮がもふもふしてるのに意外と寒がりなのねえ」
ウザウサ「お前は平気ウサか?」
リーネ「私は別に…全然平気よ」
タコ美「きっと氷魔法を習得してるから、耐性ができてるんですよ」
ウザウサ「羨ましいウサ、俺も魔法を覚えるウサ!」

そんな会話をしながら、何日も月日は過ぎ、ようやくターゲットの魔物がいる南の島へたどり着きました。

ウザウサ「暑い…」
リーネ「なにこの暑さ、死んじゃうわよ…」
妖精さん「なんか予想以上に暖かすぎたみたいですね💦」

Asram君もタオルで汗をふいています。
かなりの暑さに汗だくで辛そうです。

タコ美「それに人がいっぱいでものすごく恥ずかしいんですけど。私たち注目されてますよ」

タコ美は手で顔を覆っています。

ウザウサ「俺は少し泳いでくるウサ、宿の手配は任せたウサ!」

そう言うとウザウサは鎧を脱いで泳ぎ出します。

ウザウサ「ウッヒョー、気持ちいいウサ!」

リーネは呆れた顔で見ています。

タコ美「ああ、みなさんの見ている前で!」

タコ美は驚いて声を上げましたが、チラッとリーネの方を見ます。

タコ美「でも…えと…その、私たちもちょっと泳ぎます?」
リーネ「服がびしょびしょになるでしょ。あいつは置いていってさっさと宿に行くわよ!」
妖精さん「Asramさん、行きましょうか」
Asram君は日陰で寝ころんで休んでいましたが、しぶしぶ移動することにしました。

タコ美(少し泳ぎたかったなあ…)

宿で手配をし、部屋に入ります。
全員暑さにダレている感じです。

妖精さん「えーと、ここのターゲットは…」

妖精さんはAsram君が持っているメモを眺めています。

妖精さん「鬼の魔物ですね。古代遺跡にいるそうです」
タコ美「古代遺跡…」
妖精さん「おそらく、ここの集落の近くに遺跡は点在しているでしょう。明日村の人たちに聞き込みをして、向かいましょう」

翌日。
村で聞き込みをしていたところ、気になる情報にたどり着きました。
前にAsram君達と同じように島にやってきた冒険者が、行方不明になっていること。
鬼は時々集落を襲いにやってくるが、その後は特定の方角へと帰っていくこと。

妖精さん「なるほど、その方角にまずは行ってみるのが良さそうですね」

情報を聞いたAsram君達は道具などを買いそろえた後、集落をあとにしました。

33日目
南の島の魔物を次のターゲットにした一行は、鬼がいつも帰る方角を進み、古代遺跡にたどり着きました。

妖精さん「ここが…」
タコ美「いったいいつ頃使われていたのでしょう…?」
リーネ「こういう場所はお宝がありそうだけど、盗掘対策でトラップもたくさんあると思うわ。気を付けないとね」
ウザウサ「お宝と言っても、きっと錆び付いてるガラクタばっかりウサ」

一行は古代遺跡の中に入ります。

妖精さん「気を付けてくださいね…構造が凄く複雑そうで、道に迷いそうです」

鬼の邪気にひかれてか、魔物も集まっています。

ウザウサ「なんか俺ら戦い慣れてきたウサ。雑魚の魔物じゃ相手にならねえウサ」
リーネ「油断は禁物よ。油断が隙を生むんだから。ちゃんと―」

リーネはそう言いかけた時、足を思いっきり滑らせ、派手に転びました。

タコ美「滑る…床?」
ウザウサ「アハハハハハ!言ったそばからウサ!」
リーネ「この…!」

妖精さんは間に入るように飛び回ります。

妖精さん「落ち着いてください!トラップがあちこちにあるから気を付けて進みましょう」

その後も魔物というよりトラップに苦戦する一行。
壁から炎が噴き出したり、来た道を塞がれたり、巨大な岩石が転がってきたり。

ウザウサ「ゼエ…ゼエ…これは早く見つけねえと体力が尽きるウサ」
タコ美「この遺跡自体がトラップ…鬼はどこにもいない…なんてことでなければいいですが」
リーネ「見て…行き止まりよ」

一行の目の前は壁で道がふさがれていました。

リーネ「ちょっと待ってね、何か書いてある…」

-汝の力と勇気を示せ-

妖精さん「力と、勇気…?」
ウザウサ「アバウトすぎるウサ。もっとちゃんと説明しろウサ」
タコ美「ちょっと見てください、これ…」

タコ美が指さす先に、壁の色が変わっている部分が見つかりました。
小さな円の形をしています。

妖精さん「もしかして、これ…?」
ウザウサ「押すウサか?」

ウザウサは一生懸命押してみましたが、びくともしません。

リーネ「力と勇気だから、もしかして殴るじゃない?」
タコ美「ええ!?でも痛そうですよ!」

するとそれまで大人しかったAsram君が急にやる気を出し、腕をブルンブルン回し始めました。

ウザウサ「Asram、確かに腕力ならお前が一番ウサ!」
タコ美「でも大丈夫ですか、本当に?」

Asram君は円に近づきます。
そして息を大きく吸い込むと、円に向かって強烈な一打を繰り出しました!
Asram君は手を痛そうにしていますが、すぐに壁の方からゴゴゴゴと音がして、ゲートが開くかのように壁が持ち上がりました。

妖精さん「やった!これで先に進める!」
ウザウサ「すげえぜAsram!」

リーネ「ねえ見て、あの奥の方にいるの鬼じゃない?」
タコ美「確かに、そう見えますね…!」

Asram君は鬼のいるほうに向かって駆けだします。

リーネ「ああ、待ってよAsram!」
ウザウサ「なんかまた変なスイッチはいったウサ!?」
タコ美「行きましょう、私たちも!」

一行はついに鬼を見つけ出しました。

34日目
古代遺跡で苦労の末、鬼を見つけ出した一行。
鬼に向かってAsram君が駆けだしました。

リーネ「Asram、待ちなさい!」

ウザウサ、タコ美、リーネ、妖精さんも後からついていきます。
鬼は唸り声を上げると、金棒を振り上げ、地面にたたきつけました。

タコ美「な、なんてパワー!当たっても無傷とはいえ、吹き飛ばされそうです!」

タコ美は圧倒されています。

妖精さん「タコ美さん、幻惑魔法を!」

タコ美はハッと気づくと、すぐに魔法を唱え始めます。
しかし詠唱の途中で違和感を覚え、詠唱をやめてしまいます。

ウザウサ「どうしたウサ!?」
タコ美「魔力が…集まらないんです」
リーネ「なんですって!?」

リーネも試しに魔法を唱えようとしましたが、タコ美と同じく違和感を覚え、魔法を中断しました。

リーネ「魔法が、使えない…」
ウザウサ「マジウサか!?」
妖精さん「そうか…もしかして…」

妖精さんは壁に書かれていた文字を思い出しました。

汝の力と勇気を示せ

妖精さん「あの壁の力と勇気を示せって、壁を殴れって意味もだけど、魔法を使うなってことなのかも!」
リーネ「えー、じゃあ私たち役立たずじゃない!」
タコ美「危ないっ!!」

タコ美はリーネをかばい、鬼の一撃を回避しました。

タコ美「リーネさん、ここはみんなで力を合わせることが必要です!私たち魔道士でも何かの足しにはなるはず!」
ウザウサ「そうそう、みんなで囲んでボコるウサ!」
妖精さん「敵の攻撃を華麗にかわし、的確に攻撃する。この基本に立ち返りましょう!」
リーネ「わかったわ!」

ところでAsram君は、先ほどから果敢に鬼に突撃しています。
鬼の足に強烈な右ストレートを命中させ、鬼は少し怯んでいる様子です。

妖精さん「すごい…!」
ウザウサ「特攻隊長Asramに続くウサ!」

パーティは全員で鬼を取り囲み、打撃を食らわせています。
鬼も負けじと金棒で反撃をします。
鬼の攻撃力は高く、命中すると吹っ飛ばされてしまいます。
しかしAsram君達はひるまず攻撃し続けます。
こうなると体力勝負です。

リーネ「はあ…はあ…しぶといわねこいつ…!」
タコ美「待ってください、みなさん」
ウザウサ「え?」
タコ美「ほら、光が出ています。あの光が…!」

パーティの身体がほのかに光り始めました。

ウザウサ「これはまさか、例の…?」
妖精さん「きっとそうですよ!私たち勝てます!」
リーネ「そうとなったら…本気で行くわよ!」

Asram君達は先ほどに増して打撃を加えていきます。
光がますます輝きを増し、辺り一帯を包みます。
まばゆい閃光が走り、一行は思わず目をつぶります。

???「そうだ、これが『打』の精神だ…」

光が徐々に消え始めています。
Asram君達が目を開けると、そこには鬼の姿はなく、一人の男性が横たわっていました。

妖精さん「この方は…もしかして…」

村で聞いた情報で、行方不明の冒険者がいるというものがありました。

タコ美「大丈夫ですか?もし、しっかり!」
リーネ「…待って、この人なんか気になるんだけど…」

リーネはそう言って、Asram君と目が合うと、アッと叫びました。

リーネ「そうよ、この人Asramにちょっと似てない?」
タコ美「えっ、言われてみれば、確かに…」
妖精さん「えっ、じゃあもしかして、もしかすると、馬牧場の息子のハンスさん!?」
ウザウサ「ああ、馬をもらったときの!こんなところで何してるウサ」

リーネは不思議そうな顔をしています。

リーネ「ハンス?誰?」
タコ美「リーネさんにお会いする前に、馬を牧場で譲ってもらったことがあって。その代わり、ハンスさんっていう、Asramさんによく似た青年を探してほしいと頼まれたんです」
リーネ「なるほど…それがここにいる人かもしれないってことね」

???「うう…」

しばらくすると、青年が声を出します。
どうやら意識を取り戻したようです。

???「ここは…?」

35日目
鬼とのバトルに勝利し、魔物の変身を解いたAsram君達一行。
変身が解けると、一人の太った青年が地面に横たわっていました。

???「うう…ここは…?」
タコ美「ここは古代遺跡です。落ち着いて聞いてください。あなたは鬼の魔物に変えられていたんです」
???「古代遺跡?鬼?なんでそんなことに…」
タコ美「私はタコ美と申します。それから、あちらがAsramさん、ウザウサさん、妖精さん、リーネさんです。あなたのお名前をうかがってもよろしいですか?」

青年は首をかしげながら言いました。

???「僕はハンス。あなたたちは何者ですか?」
タコ美「私たちは国王の命を受け、魔物退治をしている者です。ハンスさん、王都の東にある村のご出身ではないですか?」
ハンス「えっ!?なんでそれを!?」
タコ美「やっぱり。私たちはその村の馬牧場の主から、あなたを探すように依頼されていたんです」
ハンス「親父が…!」
ウザウサ「さ、とっとと帰ろうぜウサ。親父さんのもとにウサ」

ハンスは立ち上がり、服の砂を手で払いました。
そこにAsram君が近づきます。

リーネ「見て見て!Asramそっくり!!」
妖精さん「本当、びっくりですね!!」
ウザウサ「なんか笑えるウサ」

ハンスは視線を感じ、落ち着きのない口調で言いました。

ハンス「そ、そんなじっと見つめないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」
タコ美「そうですよ、じろじろ見るものではないです。恥ずかしくなっちゃいますよ!」
リーネ「ごめんなさーい」
妖精さん「さ、行きましょうか。馬牧場のお父様の元へ」

一行は古代遺跡をあとにし、漁村に戻りました。

ハンス「ここから船で行くのですか?」
リーネ「そうよ。私たちの船に乗っていけばいいわ」
ハンス「あの…すみませんが、もう一度お名前をうかがってもいいですか?」
リーネ「え、私?私はリーネよ」
ハンス「リーネさん…ありがとうございます」
リーネ「うん」

リーネは少し疑問を感じながらうなずきました。

ハンス「あ、あの、リーネさんは魔法使いですよね?どんな魔法を―」
リーネ「ほら、もう船に乗るわよ。続きは船の上でいくらでもしゃべれるわ」
ハンス「は、はい!」

ハンスは嬉しそうな表情を浮かべています。
一行は船に乗りました。
王都の東の村がある大陸まで何日もかけて移動します。

リーネはハンスとずっとおしゃべりをしている様子。
それをタコ美とウザウサが、トランプをしながらチラチラ見ています。

ウザウサ「なあ、あれって…」
タコ美「多分…」

タコ美はうなずきます。

タコ美「気があるのはハンスさんの方でしょう。リーネさんはどう受け止めるのか…わくわく」
ウザウサ「あいつドライな女だからフラれるウサ」
タコ美「わかりませんよ、ハンスさんのお手並み拝見ですね」

Asram君は相変わらずパンを食べるのに夢中になっています。
妖精さんに何度も何度も怒られつつも、我慢ができないようです。

妖精さん「これまで運動で減らした分が水の泡になるじゃないですか!」

妖精さんはAsram君を揺さぶりますが、Asram君は気にせず食べています。

そんな日々が過ぎ、船がとうとう大陸にたどり着きました。
タコ美の兄のタコ助と戦った、王都の東の港町です。
ここからAsram君、タコ美、ウザウサは馬で、リーネ、ハンスは徒歩で村まで移動します。

ハンス「僕、リーネさんの故郷にも行ってみたいな」
リーネ「やめといたほうがいいわ。寒いし何もないところよ」
ハンス「でもどんなところか見て見たい…。僕も世界をめぐりたくて冒険者になったから」
リーネ「呆れた。魔物に変えられたばっかりなのに」

妖精さん「あ、村が見えてきましたよ!」

一行は村にたどり着きました。
馬牧場へと移動します。

馬牧場の男「お、おお…ハンス…!」
ハンス「父さん!」

二人は抱き合います。
それを見たタコ美は目に涙を浮かべます。

馬牧場の男「あんたらのおかげだ、感謝するよ!息子の無事な姿をまた見る日が来るとは…!」
妖精さん「良かったですね。さ、私たちはそろそろ行きましょうか。あんまり長くお邪魔してもいけませんし」
タコ美「……」
リーネ「じゃあね、ハンス。短い間だけど楽しかったわ」

ハンス「ま、待ってください!」

ハンスは慌てて声を出しました。

ハンス「あの…僕も一緒に旅に連れて行ってくれませんか?」

一行は驚きます。

馬牧場の男「てめえ、何言ってんだ!!さっき帰ってきたばっかりだろうが!?」
妖精さん「そうですよ、せっかく無事に帰れたのに何言ってるんですか!?」
ハンス「わかってます、バカなことを言ってるって…でも…でも…!」

ハンスは重々しく話します。

ハンス「僕は、もともと冒険者になりたかったんです…世界を旅するのが夢で。それに」
ハンス「リーネさん、あなたのことが頭から離れないんです!」
リーネ「…!!」

リーネは目を見開き、息を大きく吸い込みました。
その後真面目な口調で話します。

リーネ「悪いわね。私たちは王様から依頼を受けて旅してるの。遊び感覚とは違うのよ」
リーネ「あなたのいるべき場所はここよ。お父様をこれ以上悲しませてはダメ」
ハンス「…………」
リーネ「心配しなくても、もう会えなくなるわけじゃないわ。戦いが終わったら、この村に寄ることもあるでしょう」

ハンスはそれを聞いて、しぶしぶうなずきました。

ハンス「わかりました、来訪お待ちしています。きっと戻ってきてください」
リーネ「ええ、ありがとう。馬が欲しくなったら来るわ」
馬牧場の男「ほんとすまねえなあ、こんな息子で。でも息子と二人で待ってるぜ。あんたならタダで馬をくれてやるよ」

一行は馬牧場をあとにしました。

タコ美「良かったですね。ところで…本当にまた村に戻るのですか?」
リーネ「ううん、今のところは。でもああ言っておけば引き下がりやすいでしょう?」
ウザウサ「期待させといて裏切る…極悪非道ウサ」

36日目
南の島の古代遺跡で、鬼に変身していたハンスを元の姿に戻し、故郷まで送り届けた一行。
次なる目的地の選定のため、王都の東の港町の宿屋で話し合っています。

タコ美「あと残りは、砂漠の近くの洞窟と、高山地帯と、魔術師の街の近くにある古城の3つですね」
リーネ「どこが近いの?」
タコ美「砂漠ですね。船で大陸沿いに南下すればたどり着けるでしょう」
ウザウサ「砂漠…できれば遠慮したい場所ウサ」
妖精さん「でも嫌なところを先に潰せば、後が楽になりますよ」

皆の話し合いの結果、砂漠に行くことに決定しました。
船で移動しています。

タコ美「砂漠の先にある洞窟は、炎の洞窟と呼ばれる恐ろしい場所だそうです。そこに行くまでに、地理関係上、砂漠をどうしても越えないといけなくて」
妖精さん「飲み物をたくさん用意しとかないとですね」
ウザウサ「大丈夫ウサ、タコ美とリーネの魔法で氷水を作れるウサ」
リーネ「私たちの魔法は井戸水じゃないんだから、すぐに魔力が無くなっちゃうわよ」

なんてことを言っている間に、砂漠に到着しました。

ウザウサ「あぢい…ウサ…」
妖精さん「南の島より…暑い…」
リーネ「ごめん、氷水やっぱ作るわ…」

一行は水分補給しつつ砂漠を進みます。

タコ美「砂漠を抜けるまでは結構距離があります…。無理せず休み休み行きましょう…」
ウザウサ「ウーっす、ウサ…」

ところで、Asram君はだいぶ暑さに参っている様子です。
常にタオルで自分の汗をふいています。
ぜえぜえと息が上がっているようです。

リーネ「Asram、大丈夫?氷水作ろうか?」

Asram君はうなずき、氷水を美味しそうに飲んでいます。

時折サソリや蛇などの魔物に出くわします。
暑さでダレている皆にとっては、弱い魔物でも脅威です。

リーネ「はあ…どこまで続くのかなこの砂漠…」
ウザウサ「日が暮れるウサ…」
タコ美「もう少し先だと思います。もうひと頑張りですよ」

一行は休みつつ足を前に進めていきます。
もう夜になろうとしているときでした。

妖精さん「見てください!砂漠があそこで切れてますよ!」
リーネ「ほんとだ!」
タコ美「よかった、無事抜けられましたね」
ウザウサ「ふぃーっ、疲れたウサ。今日はここで寝るウサ」
タコ美「そうですね、ここでキャンプしましょう。炎の洞窟はもうすぐそこだと思います」
リーネ「私ももう限界…足が痛いわ」

キャンプの火を起こし、食事を始める一行。
これから炎の洞窟で待ち受ける苦難を思いつつ、眠りにつくのでした。

37日目
砂漠を越え、キャンプで一晩過ごした一行。
目指すは炎の洞窟です。

タコ美「洞窟というからには、山がある場所にありますよね。あっちの方行ってみます?」
妖精さん「そうですね。山が見えてますし」

一行は近くの山に移動します。

ウザウサ「でも洞窟ったってポツンとあると思うから、探すの大変ウサ」
リーネ「タコ美、あなた感知魔法を覚えてたよね?ここら一帯で魔力が高い地点を調べられない?」
タコ美「そうですね、やってみましょう」

タコ美はそう言って魔法を唱えます。

タコ美「…なるほど、みなさんこっちです」

一行はタコ美を先頭に移動していきます。
しばらくして、洞窟らしきものを見つけました。

妖精さん「あ!ここですか?」
タコ美「はい、ここから高い魔力を感じます。魔物によるものか洞窟自体によるものかわかりませんが…」

ウザウサ「じゃ、さっさと入ろうぜウサ」

ウザウサがそう言って洞窟に入ろうとしたときでした。

ウザウサ「これは…熱いなんてもんじゃねえウサ。ここにいたら確実に焼け死ぬウサ」

洞窟の中は溶岩が流れており、炎が噴き出し舞っていました。

リーネ「ええ、何これ…こんなところ無理じゃない!」

リーネも中の様子を見て叫びます。

リーネ「本当にここで合ってるの?」
タコ美「おそらく…としか言えませんが」
妖精さん「どうします?何か熱さ対策しないと、私たち入ったら全滅ですよ」
タコ美「一つ…私とリーネさんで氷のバリアを張り続ければ、大丈夫かもしれません」

リーネが下顎に手を当てて考えます。

リーネ「なるほど…でもそれじゃあ私たちは戦闘に加われないわよね」
ウザウサ「俺とAsramしか戦えねえウサか!?」
タコ美「ええ…」

妖精さん「もし、ですよ?魔力が途中で切れてバリアを張れなくなったら…?」
リーネ「ジ・エンドよ」
妖精さん「そそそそ、そんなぁ~!!」
タコ美「大丈夫ですよ、残り魔力が半分切りそうになったら、いったん引き返しましょう」

一行は炎の洞窟に入ります。
バリアがあるので何とか熱は大丈夫ですが、雑魚との戦いに苦労しています。

妖精さん「頑張ってください~!!」
リーネ「フレッフレッAsram、フレッフレッウザウサ!」
タコ美「お二人ともご無理なさらずに…!」

3人は応援に徹しています。

ウザウサ「なんか外野がうるせえウサ…」

Asram君は気にしていない様子です。

しばらく歩いていく一行。

タコ美「いったいどこまで続いてるのか…なぜこのような洞窟ができたのか、不思議ですね」
リーネ「単純に火山だからじゃないの?」
タコ美「私の予感ですが、洞窟の主である魔物がこの炎を活性化させている気がするのです」
妖精さん「じゃあ、噴火なんてことも…?」
タコ美「あり得るかもしれません」

しばらくすると、離れたところから物音がしてきました。

ウザウサ「シッ!何か聞こえるウサ」

ウザウサは先行し、様子を見た後パーティに手招きをします。

ウザウサ「見るウサ。何か戦ってるウサ」

人と魔物が戦っています。
男性と思われるその人は、素手で果敢に魔物を攻撃しています。
魔物の方は数が多く、苦戦している様子です。

妖精さん「みんな、加勢しましょう!」

全員うなずくと、男の所へ駆け寄ります。

男「なんだおめえらは!?」
妖精さん「魔物退治をしている者です!まずはこの魔物を片付けましょう!」

男は龍のお面をかぶり、武闘家の服を身に着けています。
素手で戦い、気功で敵を圧倒しています。

タコ美「すごい…!」
リーネ「てか、なんで熱さ大丈夫なの?」

敵は降参し逃げていきました。

男「全く、あんな奴ら俺様一人で何とか出来たってのに、余計なお世話だぜ」
ウザウサ「なんだと、口の利き方に気を付けるウサ」
タコ美「喧嘩は止めてください!私はタコ美。こちらはウザウサ。あちらにいるのがリーネとAsramと妖精さんです」
男「ふん。ただの雑魚冒険者ってわけでもなさそうだな。俺様は飛龍。カッコいい名前だろう?」

一行に沈黙が走ります。

飛龍「何か反応しろこのボケが!!褒めるなり突っ込むなりなんとかせい!!」
リーネ(突っ込んでいいんだ…)
タコ美「あ、あの、飛龍さん?熱くありませんか?私たち熱いのでこうしてバリアを張っているんですが…」
飛龍「フハハハハハ!!未熟者が!俺様はこの程度の熱さにへこたれはせんぞ!!お前たちとは鍛え方が違うのだ!!」
リーネ「脳は熱でやられてる感じだけどね」
飛龍「ほう、小娘。なかなかの度胸だな、気に入った。特別に聞いてやろう、お前らはここで何をしている?」

妖精さんが飛龍の前に出て言いました。

妖精さん「私たちは、王様の命で世界各地の魔物退治をしています。その過程で、魔物を元の人や動物に戻せることを知りました。そして人や動物を魔物に変えていった張本人を追っています。」
飛龍「ほう、そんな奴がいるのか?俺様もじいの命を受け、この洞窟の魔物の討伐に来ている。どうも魔物が活性化しているようなのだ。俺様の住んでいる集落まで魔物が来たりする」
リーネ「じゃあ目的は同じね、飛龍さん。いったん私たちと組まない?」
飛龍「お前らと俺様が?冗談…」

飛龍はそう言いかけて思いなおしました。

飛龍「いや、俺様の予感だがこの洞窟にはやべぇやつがいる。この俺様でも勝てるかどうか…。フン、お前らの力を当てにするわけじゃねえが、どうしてもついて来たかったら来てもいいぜ」
ウザウサ「素直に言えウサ、助けてほしいってウサ」
飛龍「何だと貴様!!」
タコ美「喧嘩はやめてください!!」

妖精さん「さあ行きましょう!魔力はまだ大丈夫ですか?」
タコ美「7割くらいです」
妖精さん「6割切ったら引き返しましょうか。すぐに見つかるといいですけど」

しばらく歩く一行。
するととても広々とした場所にたどり着きました。
中央付近に赤く輝く玉が浮かんでいます。

タコ美「あれは…?」
飛龍「あれは、間違いない!火の宝玉だ!!」
リーネ「火の宝玉?」
飛龍「村に伝わる財宝だ!だいぶ前に失われたのだが、こんなところにあったとは…!」

飛龍が火の宝玉に近づきます。
するとけたたましい鳴き声とともに、巨大な火の鳥が姿を現しました。

飛龍「おおっ!?」
リーネ「こいつが、ターゲットの魔物ね!」
妖精さん「皆さん、気を引き締めてください!」